最低なのに恋をした
「それで?」

兄は続きを促す。

「私は美月さんと結婚を前提にお付き合いできればと思っており、話が撤回された今でも気持ちは変わっていません」

真っ直ぐ兄を見つめる専務を私は凝視した。

今、専務から出た言葉の意味が理解できない。
ほぼ一気に飲み干したビールのせいだろうか。

「素行が、悪いんですよね」

兄は一瞬驚いた表情をしたが、すぐに眉間のシワが濃くなる。

「美月さんに出会ってから、やましいこと行動は一切していません」

キッパリと専務が言い切る。

「それは誰もわからないでしょう」

兄は怒りを抑えているのがわかる。

「美月さんは私に常に同行してますし、女性の影がないことはわかっているはずです」

兄と専務の視線が私に集まる。
2人の顔を交互に見る。
モヤモヤする。目の前では私の話がされていた。2人でどんどん話を進めていたのに、突然私に相槌を求められても困る。

「だから…私は。私の話なのに、どうして私抜きで話を進めるんですか」

私はイライラからグラスを持ちまたビールを飲む。
ダンと音を立てグラスを置きまた2人を交互に見た。

「もー、専務は私に言わない事をどうして兄に言うんですか」

さっき兄に言った言葉は?
私は何も言われていない。

専務の顔を睨みつける。

「お兄ちゃん、もう一杯」
兄にお酒の催促…注文をする。

「美月、飲みすぎるな」

兄は呆れた声で私を見る。

「いいじゃん。もう、面白くない」

「安西さん、ごめんね。食べようか。温かいうちに」

目の前の冷め始めてるであろう料理をみた。
…食べたい。
私は専務の言葉に頷きフォークを持った。

「…いただきます」

温野菜サラダの上の温泉卵を割るとトロッと中の黄身が溢れた。
空腹で2杯もビールを飲み干したせいか、次第に酔いが回ってきてるのを感じる。
頭がフワフワしてきた。
やばいな。

烏龍茶を注文したかったけれど、声を出すのを躊躇われ、黙々と食べる。
専務も何も言わずに、食べている音だけ微かに聞こえてくる。

気づけば兄は私達から離れ仕事に戻っていた。

「安西さん、さっきの本気だよ」
隣から落ち着いた声が聞こえてくる。

「さっきのというのは?」

可愛げのない言い方だなぁと思うけど、ボロネーゼを食べ終わる頃には頭が冷静さを取り戻しつつあった。

モヤモヤとイライラを何故あそこまでぶつけてしまったのだろう。

私の知らないところでお見合いが申し込まれ、断られた。私という存在があまりにも軽く扱われた気がしたのだ。

「安西さんが好きってこと」

あれこれ考えていた頭の中に、隣からストレートすぎる言葉が飛び込んできた。

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