最低なのに恋をした
「親父に見合いしたいって頼んで。うちの親は俺に早く結婚しろって言ってから。喜んでたよ」

コンプライアンスを気にするのは時期社長だし、今の時代当然気にすることなのだろうけど。

「私に直接言ってくれたら」
「オッケーしてくれた?」

専務の言葉に少し考える。

「オッケー…しないと思いますけど」

確かに「秘書が専務に迫られたら」何で外聞が悪い。

私にその気がなければ確かにパワハラだしセクハラになりかねないとようやく想像できた。

でも…

「でも、私の知らないところで話が勝手に進んで終わっていたのは嫌でした」

「そうだよね。ごめん」

専務の顔からヘラヘラは消え申し訳なさそうな表情に変わる。

「お見合いの事聞いてはいたんですけど、聞いた次の日に専務が発熱して。そのあともいろいろありましたし。さっき兄に聞かれるまですっかり忘れてしまっていたんです」

私の言い訳を口にする。
「うん」

専務は静かに相槌を打つ。

「だから、わたしにも非があるんですけど。でも、理由があるにしても私の知らないところで断られていたのは嫌でした」

アルコールのお陰かスラスラ自分のモヤモヤを吐き出せた。

「うん」

専務はまだ静かに私の次の言葉を待っている。

「私の事は私に聞いてください」

「ごめん」

専務の「ごめん」の一言がなぜかつらい。

「私は責めてるわけではなくて」

「うん」

「ただ…」

そこまで話した時、ふと疑問がよぎった。

「なんで私なんですか」

これまで関係を持った女性たちは自分に自信のあるタイプに違いない。イケメンで御曹司の専務にいい寄るくらいだ。
そういう女性たちと、私はタイプが違う。
主に性格が。

私を好きだというのなら、その理由を聞きたい。こわいけど、聞きたい。
なぜか…
私は気づいてしまった。自分の気持ちに。

先程のイライラやモヤモヤの理由。

専務が口にした言葉、全て嬉しいに決まっている。

そう、私はきっと専務に恋をしてしまったんだ。


「安西さんがお酒を飲んでいない時に話すよ」

「お酒を飲んでいない時…?」

「安西さん、酔ってるでしょ。明日になったら忘れちゃったとか、そうなったら俺がショックすぎるから」

乙女のような事を考える専務を可愛いなと思ってしまった私は自分の思っている以上に酔っているのかもしれない。


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