最低なのに恋をした

最低さんとの再会

私の勤める佐田コーポレーションは、国内外にホテルや旅館を展開している会社だ。

私の実家も飲食店を経営しているが、なぜ実家ではなく佐田コーポレーションのような大手に就職したかといえば、他の会社で働きたいという単純な理由だ。

運良く内定を貰うことができ、勤続3年目。
そこの秘書室に私と唯さんは所属している。

「新しい専務がくる」

そう知らせを受けたのは1ヶ月前。
私が専務の担当になる事が発表されたのが1週間前。

社長の息子で海外事業部からの異動だ。

今まで息子という事を隠して勤務をしていたという事で私は面識がない。

なかった、はずだった。

「桜木海斗です。宜しくお願いします」

目の前にいる新しい専務の顔を食い入るように見てしまった。
切長の目に薄い唇で感じの良い笑みを浮かべているのはあの「最低」な男だった。

え?っと変な汗がジワっと噴き出すのを感じた。ドキドキと心臓が痛いくらいに速くなる。

もう会うことはないと思っていた男が目の前にいた。

「安西美月です。宜しくお願い致します」

動揺が表情に出ないよう、顔に力を入れる。

桜木専務はこちらにあの日カフェで見たビジネス用と取れる笑顔を向ける。

なんでよりによって私が担当なのだろう。

「安西さん、何か?」

「え?」

「先程から睨まれてるきがするのですが」

心の中の不満が目に現れてしまったようだ。

「申し訳けありません。何でもありません」

冷静にと心の中で繰り返し頭を下げる。

「そう」

桜木専務はそう言うとデスクに座りパソコンを開いた。

まずは仕事をしよう。
彼氏に振られた今、仕事が1番だ。

桜木専務にしてもあの日男に振られた女と今、目の前にいる担当秘書が同一人物だと気づいていないかもしれない。

私は今日のスケジュールを確認していく。
桜木専務からの指示を聞き流すことのないようメモを取る。

今日の専務の予定は取引先に挨拶に行く予定が大半で私の同行の予定はない。




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