天敵御曹司は純真秘書に独占欲を刻み込む~一夜からはじまる契約結婚~
「龍一郎さん、どうして?」
会いたくなかった、でもやっぱりこの温もりを感じれば嬉しくて、ぐちゃぐちゃになる感情が渦巻く。
それと同時に「俺の妻」という言葉に、違うじゃないと苛立ちも募る。
初めからこうやって気を持たすセリフを言うからいけないんじゃない。周りには冷たいのに、私にだけ優しくするから勘違いしたのよ。
そんな溢れる思いが止まらなくて、龍一郎さんの顔が見られない。そのまま動きを止めていると、番号表示に私の数字が浮かび上がる。
「呼ばれました」
自分でも驚くほど低い声が出たと思えば、龍一郎さんはあろうことか私をお姫様のように抱き上げる。
何があっても冷静で、表情を崩さないしこんなことをするような人じゃない。
そう思うも、何も言えず私は唖然と龍一郎さんの顔を見た。
そこには今まで見たことがないほど、沈痛な面持ちの彼がいて、私は訳が分からない。