天敵御曹司は純真秘書に独占欲を刻み込む~一夜からはじまる契約結婚~

「本当のデートですね」
クスクスと笑っていえば、龍一郎さんは少し拗ねたように言葉を発する。

「今までは本当じゃなかったのか?」

「だって、契約だって言ったのは龍一郎さんでしょ?」

そう、「私の望む結婚生活をしてやるから結婚しよう」そのセリフを思い出して彼を仰ぎ見れば、驚いたようにこちらへ視線を向けていた。

「え? それは思い出したのか?」
まさか、その断片的な言葉だけを引っ張り出されると思っていなかったようで、龍一郎さんは顔をしかめた。

「ところどころ思い出したことがあって。だから私が一万円払ってたんですよね?」

「ああ、まあ確かにそうだが……」
少しため息交じりに応えた後、龍一郎さんはギュッと握っていた私の手に力を込めた。

「もう、箱根の旅行に行ったときは、佐知が特別だったよ。契約でもなんでもなくただ佐知を喜ばすことしか考えていなかった」
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