天敵御曹司は純真秘書に独占欲を刻み込む~一夜からはじまる契約結婚~


「あなたに私は用はありません」
冷徹上司の時よりも、更に冷え切った彼の声音に、この人が望まない人だということはすぐに分かった。

初夏の緑がとてもキレイだと感じていた私だったが、一気にただ夏の暑さだけを感じ、着ていたシャツが、素肌に張り付くような気がした。

「そう言うわけにはいきません」
この暑い夏でもきちんとしたスリーピースのスーツを着たその男性は、まっすぐに私達を見ていた。

「何度も申し上げたはずです。元永さんには申し訳ないが、あんな要求を呑むわけにはいかない。あの人にもそう伝えたのでしょう?」
それだけを言うと、龍一郎さんは私の手を握りしめたまま歩き出す。

「今日はどうしても一緒に来ていただきます」
必死な様子でその人は私たちの前へと回り込むと、私にも視線を向ける。

「初めまして。私は弁護士の元永と申します」
慣れた様子で名刺を取り出したその人に、龍一郎さんは私に「受け取るな」それだけを口にした。
どうしていいかわからずギュッと唇をかみしめていると、元永さんがさらに口を開く。
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