天敵御曹司は純真秘書に独占欲を刻み込む~一夜からはじまる契約結婚~
いつもは仕事を真面目にこなし、笑った表情など見たことがなかった。
可愛らしいそんな感情を持ってしまった自分を戒めるも、その温もりがなぜか愛しくて、俺は彼女の友人をなんとか送り届けた後、若林を俺の家へと連れて帰った。
ベッドに寝かせれば、暑くなったのか寝苦しいのか服を脱いでいく若林。
そんな彼女にため息を付きつつも、朝起きた時の若林の驚く顔が見たくて、少しだけイジワルをする。
俺のシャツだけを着せると、そのまま眠りにつかせた。
母親が死んで以来、初めて自分に芽生えたかもしれない、”楽しい”という感情。彼女の色々な表情を見てみたい。そんな自分に驚きつつも、俺は無意識に笑っていたことに気づく。
「俺が利用するんだから、その報酬はお前が望んだ結婚生活だな。そして俺の報酬は1万円」
そう呟いてみると、若林が眠りながら笑った気がして、俺は無意識に彼女の頬に触れるだけのキスを落とす。
「おやすみ」
もちろん返事などないが、俺は久しぶりに誰かにその言葉を伝え部屋を出た。