天敵御曹司は純真秘書に独占欲を刻み込む~一夜からはじまる契約結婚~
「龍一郎さん!」
私が声をあげれば龍一郎さんが初めて楽しそうに声を上げて笑った。
「一度やってみたかったんだよ。映画に出てくるようなただいまってやつ」
覚えていないとはいえ一番初めから身体の関係を持っているのに、今更頬のキスぐらいで何を慌てているのかと言われればそれまでだが、今日まで一緒に暮らしていてもそんな雰囲気になったことすらない。
たまにからかうように私に触れるが、今のキスはなぜか本当に温かかった。
私を通り越して中へと歩いて行く龍一郎さんの背中を見つめながら、小さく息を吐くと私も後を追う。
今の言葉からも龍一郎さんが結婚に興味がないことの原因が、彼の過去にあるのかもしれない。
それを知りたい、もっと彼に笑って欲しい。そんな事を思うも『詮索しない』その言葉を思い出しグッと耐える。
龍一郎さんに対する、欲求が湧き出るのを止めることができなかった。