天敵御曹司は純真秘書に独占欲を刻み込む~一夜からはじまる契約結婚~
「嫌だった? 温泉といえば箱根かなって」
少し心配そうに尋ねた龍一郎さんに、私は首を振って見せる。結婚をしたら旦那様とゆっくり温泉とかに行ってみたい、ずっとそう思っていた。
あれ? それをいつか話したのだろうか? そんなことを思うも、龍一郎さんは慣れた様子でハンドルを握る。
その姿もとても様になっていて、大人の男性を意識せずにはいられない。
「箱根、大好きです。食べ歩きしたいし、足湯とかもありますよね?」
昔一度だけ舞子たちと来たことを思い出しながら、外の風景を見ていると特に返事はない。
コインパーキングに止めると、私たちは車を降りたくさんの人でにぎわう街並みへと向かう。
「龍一郎さん、あの温泉饅頭食べたいです」
湯気が上がり店先で手作りをしている店をみつけ、私が指させば「ああ」とだけ答えが返ってきた。
さっきからなぜか少しだけ不機嫌な気がして、私は足を止めた。