天敵御曹司は純真秘書に独占欲を刻み込む~一夜からはじまる契約結婚~
そんな気持ちになりつつ、心の中でため息を付くと書類の作成を始めた。
そんなとき部長のスマホがなり、珍しくいるも冷静な表情が一瞬緩んだ気がした。
「もしもし?」
うそでしょ? いつもと違うその声音に私は唖然としてその方を見てしまった。
しかし、そんな私の視線など気づいていないようで、部長はなにやら真剣にその話を聞いているようだった。
「わかった。大丈夫か?」
「ああ。いつものところで」
心底相手を気遣うような優しい言い方、直感で大切な人だとわかった。
そしてあろうことか最後に、この人の口から出たかと疑わんばかりのセリフが飛び出す。
「もっと俺を頼れよ」
俺を頼れ? その表情はもはやいつもの無表情ではなく瞳が揺れていた。この彼にこんな顔をさせる電話の向こうの相手が気になり、少しの間見つめてしまう。
冷徹だと思っていた上司の素顔を、垣間見た瞬間だった。