ご主人様だけに一途



僕は慌てて、自転車を降りた。



忍者のように隠れながら
二人の背後に近づき

太い木の後ろに、身を隠す。




二人の背中しか見えないから

どんな表情をしているのか
わからないなぁ……



雅光君のトゲトゲした声が

5メートルほど離れた僕の耳にも
キンキン突き刺さる。




『ちゃんと答えろよ!
 なんで俺に、話してくれなかったんだよ!』


『だって、それは……』



怒鳴り声をあげる雅光君に対し

葉音ちゃんの声は、弱々しい。




『ゲームキャラのウサギの獣人のこと。
 昼休みに、葉音のおじさんから
 電話もらって、初めて知ったし!』


葉音ちゃんのお父さんが、
雅光君にお願いしたってことか。




『同じクラスで、
 毎日顏合わしてるんだから。
 葉音から俺にお願いするチャンスなんて、
 いくらでもあっただろ?』


『そう……だけど……』



『葉音はさ
 俺のことが、嫌いだしな!!』



雅光君は、
嫌みたっぷりなため息を、
葉音ちゃんに吐き捨てている。


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