異世界転移したら、そこで強力な治癒術師になってました。
「え、どうやってるんだ?! しかも、無詠唱だなんて!」
虹を見て立ち上がって叫んだのは線の細くて、神経質そうな銀髪碧眼の見た目派手男子。
「そのものが起きる条件さえ知っていて、それを見た事のあるように見せるだけよ? 何も驚くことじゃないわ」
私の一言に、クラス中からそんな! とか、これが黒の乙女の力か! とかいう言葉が聞こえてくる。
「ユウ様、ちょっと初めから飛ばしましたね?」
シャロンさんがジーッとした視線で、問うてきたので、私はシレッと返した。
「まぁ、何事も初めが肝心でしょう?」
「ごもっともですが、吉と出るか凶と出るか分かりませんよ……」
ため息をつかれてしまったが、致し方なし。
しかし、無詠唱だとか驚かれたけれど皆は魔法を使うのに呪文とかなにか言葉を言うってこと?
もしや、厨二病的な魔法の呪文があるのかな?
ちょっと人様の魔法が見たくなってきたと、表情が緩んだところでついこの間聞いた覚えのある笑い声が聞こえてきた。
「フォッフォッフォ。ユウ様、いきなり多重魔法とは流石ですなぁ」
顎から長く伸びる髭を撫でつつ、編入試験で会った元魔術団の団長だったおじいちゃまが現れた。
「先日は試験をしていただきありがとうございました。本日はどうなさったんですか?」
私の問いに、にっこり微笑んでおじいちゃまは言った。
「ユウ様の編入が今日からと、聞いておりましたからのう。様子を見に来たら、さっそく皆にいいものを見せてくださいましたのう」
おじいちゃまは実に愉快そうに微笑んで、教室の驚く面々を見つめていた。
「ユウ様は、こういった魔法をサラッとお使いになるが、皆が簡単に出来ることではない。ユウ様は、物の原理をよく知っておる。故に多重魔法でこういったことが出来るのじゃ」
そう言ったあとに、珍しく眼光鋭く言った。
「じゃが、ユウ様が一番本領を発揮なさるのは治癒術じゃ。それをまずは拝見させていただこうか」
こうして、編入初日からいきなり実地で魔法を使うことになる。
おじいちゃま、ニコニコ笑顔で結構なスパルタだね。
魔法科の教室から、移動して外にある騎士科の鍛錬場に足を運ぶと、そこでは模造刀での実戦形式で試合中だった。
「ユウ様。ここでは大小さまざまなケガ人がわんさか出ます。治癒術かけて見せてくれんかのう」
いきなり治癒術を使えっていうのは、また無茶なことを。
形態としては魔法と言って差し支えないけれど、治癒術は医療知識のあるなしが成功にかなりの影響を与えると、私は認識している。
事実、魔法が使えるものは治癒術で簡単な打撲やかすり傷なら治してしまう。
しかしそれが大きなケガだったりすると途端に治癒の効きが悪くなるのは、ひとえにその症状がどうしたら治るのかを知らないからだ。
風邪だって、ウイルスが原因だと知っていれば、それがいなくなるようにと力を使えば体調は回復する。
でも、完治というよりは応急手当。
症状が改善されても残りの部分は本人の本来持つ治癒能力に頼っていて、それを強めに促しているに過ぎないのだ。
だから過剰に期待されても困るし、死者は生き返らないのだ。
そこをどう捉えてくれるか、それは間違えのないようにしっかり説明しなくてはいけない。
そこに激しい打ち合いと、魔法を混ぜた剣戟で片方が壁まで弾き飛ばされて動けなくなった。
「大丈夫ですか!」
見ていた私は駆け寄った。
頭から血が滲み始めている。息も苦しそうなので、肋骨のあたりも怪しい。
「ヒール」
呟くと、キラキラと光の粒が倒れた相手に掛かると、みるみるうちに息遣いが落ち着いて、目が開いた。
「あれ?さっきまでの痛みは?」
ケガをした本人が、いきなり痛みが無くなって驚いている。
「どうですか?大丈夫そうですか?」
私が聞くと、視線が合ってびっくりしている。
「黒の乙女様!?」
「はい、ちょっと訳がありまして。ケガが酷い状態だったので治癒させてもらいました。違和感等ありませんか?」
「大丈夫です!ありがとうございます!」
なんだか過剰なくらい、感謝されている気がするが、治ったようでなによりだ。
「ユウ様。今の治癒術もお見事でしたな。あれは、どう治癒を施したか聞いても良いかよのう?」
うん、おじいちゃまはかなり治癒に関しても分かっていて、生徒達にも説明出来そうなのにしないなんて、結構ずるいな。
多分、私のためなんだろうけれど……。
「今回の彼の場合、血が流れた頭に注目してしまうと思いますが、側に行けば彼の呼吸が乱れ息苦しそうなのが分かりました」
私の言葉に、ひとつ頷くとおじいちゃまは先を促す。
「そこで、私はヒールの前に無詠唱で彼の胸部から腹部にかけてのケガが分かるようにサーチを使いました。そして肋骨が折れて肺を圧迫している事に気付き、それが癒えるようヒールを使ったのです」
私の言葉に教師陣含め、最終学年に席を置く学生達も驚いている。
「では、ユウ様。サーチではユウ様にはどのように見えるのです?」
担任のキャレド先生が聞いてきたので、私は私のサーチで見た物を皆さんにも見えるように可視化、知識の共有を行うことにした。
つまり、現代のレントゲン写真みたいな感じで画像の共有である。
いきなり、目の前に浮かんだ映像に驚いた後に、その映像をマジマジと見つめる。
皆が注目したところで、私は話し始めた。
「これが、さっきの彼の状態。ここを見ると分かるけれどこの左の肋骨ここ、線が入っているの。ここが骨折箇所」
みんな、そこをマジマジと見つめ線を確認すると頷いている。
「この肋骨の骨折部分が、後ろに写るこの肺の部分を圧迫していたから、彼の呼吸に問題が出たの。なのでここを中心に治癒術を使ったわ」
そこで、映像を消して皆に言った。
「これは、私なりの治癒術の使い方になると思う。私には、たぶんだけれどこの国の医官見習いさん位の人体に関する知識があるから」
それにはさっきの画像や説明で、納得がいったのか特に周りからどうこうとは声は上がらなかった。
「つまり直ぐに同じことは出来ないけれど、皆も学べばこの治癒術は使用可能だということです」
その私の言葉に、俄然周りの人々の目の色が変わった。
魔法科に通う学生達は、皆わりと知識欲が旺盛で、新しものを貪欲に学んでいく姿勢があるように思う。
なので、編入生な私の話でも、ちゃんと聞いてくれたのだろう。
最初も批判的というより驚きと、その工程への興味の方が強そうだったから。
つまりは、ここにいる面々は結構な魔法馬鹿な可能性が高い……。
「フォッフォ。ユウ様、さすがですのう。皆を乗せるのが上手い。じゃが、皆心得よ。この魔法、一度でかなりの魔力を消費することをのう」
おじいちゃまの言葉に、この場の学生も、何故か覗きに来ていた他の騎士科や下の学年の魔法科生も先生も、ピシッと固まっていた。
「さて、ユウ様。つかぬ事を聞きますが、今疲れや脱力感や眠気はありますかな?」
そんな周りは放置気味におじいちゃまは私の状態を聞いてきたので、サラッと素直に答えておく。
「全く問題なく、元気です。疲れも眠気もありませんよ。むしろまだまだ色々出来ますけど、どうします?」
そんな私の返答に、魔法が使える周囲の者はギョッとしていた。
「さすがは黒の乙女ですなぁ。そういったわけで、ユウ様は我々とはそもそも魔力量が違う事を忘れないように」
ニッコリ笑って言ったおじいちゃまの言葉に、周囲は深く頷いて今回の治癒術の実地は幕を閉じた。
学園初日から、色々とやったおかげで、黒の乙女と治癒術における実力は間違いないことを周囲も認識してくれて、なんとか学園生活はスタートを切った。
もちろん、その日に帰宅してシャロンさんから報告を受けたクリストフさんやマリアさんにちょっと注意を受けた。
「ユウの力はかなり強いのだから、使い方を違わないように気をつけなさい」
そう言われたのだった。
まさかこの初日からの行動で魔法関係で一気に売り込み合戦になるなんて、予測していなかったから。
虹を見て立ち上がって叫んだのは線の細くて、神経質そうな銀髪碧眼の見た目派手男子。
「そのものが起きる条件さえ知っていて、それを見た事のあるように見せるだけよ? 何も驚くことじゃないわ」
私の一言に、クラス中からそんな! とか、これが黒の乙女の力か! とかいう言葉が聞こえてくる。
「ユウ様、ちょっと初めから飛ばしましたね?」
シャロンさんがジーッとした視線で、問うてきたので、私はシレッと返した。
「まぁ、何事も初めが肝心でしょう?」
「ごもっともですが、吉と出るか凶と出るか分かりませんよ……」
ため息をつかれてしまったが、致し方なし。
しかし、無詠唱だとか驚かれたけれど皆は魔法を使うのに呪文とかなにか言葉を言うってこと?
もしや、厨二病的な魔法の呪文があるのかな?
ちょっと人様の魔法が見たくなってきたと、表情が緩んだところでついこの間聞いた覚えのある笑い声が聞こえてきた。
「フォッフォッフォ。ユウ様、いきなり多重魔法とは流石ですなぁ」
顎から長く伸びる髭を撫でつつ、編入試験で会った元魔術団の団長だったおじいちゃまが現れた。
「先日は試験をしていただきありがとうございました。本日はどうなさったんですか?」
私の問いに、にっこり微笑んでおじいちゃまは言った。
「ユウ様の編入が今日からと、聞いておりましたからのう。様子を見に来たら、さっそく皆にいいものを見せてくださいましたのう」
おじいちゃまは実に愉快そうに微笑んで、教室の驚く面々を見つめていた。
「ユウ様は、こういった魔法をサラッとお使いになるが、皆が簡単に出来ることではない。ユウ様は、物の原理をよく知っておる。故に多重魔法でこういったことが出来るのじゃ」
そう言ったあとに、珍しく眼光鋭く言った。
「じゃが、ユウ様が一番本領を発揮なさるのは治癒術じゃ。それをまずは拝見させていただこうか」
こうして、編入初日からいきなり実地で魔法を使うことになる。
おじいちゃま、ニコニコ笑顔で結構なスパルタだね。
魔法科の教室から、移動して外にある騎士科の鍛錬場に足を運ぶと、そこでは模造刀での実戦形式で試合中だった。
「ユウ様。ここでは大小さまざまなケガ人がわんさか出ます。治癒術かけて見せてくれんかのう」
いきなり治癒術を使えっていうのは、また無茶なことを。
形態としては魔法と言って差し支えないけれど、治癒術は医療知識のあるなしが成功にかなりの影響を与えると、私は認識している。
事実、魔法が使えるものは治癒術で簡単な打撲やかすり傷なら治してしまう。
しかしそれが大きなケガだったりすると途端に治癒の効きが悪くなるのは、ひとえにその症状がどうしたら治るのかを知らないからだ。
風邪だって、ウイルスが原因だと知っていれば、それがいなくなるようにと力を使えば体調は回復する。
でも、完治というよりは応急手当。
症状が改善されても残りの部分は本人の本来持つ治癒能力に頼っていて、それを強めに促しているに過ぎないのだ。
だから過剰に期待されても困るし、死者は生き返らないのだ。
そこをどう捉えてくれるか、それは間違えのないようにしっかり説明しなくてはいけない。
そこに激しい打ち合いと、魔法を混ぜた剣戟で片方が壁まで弾き飛ばされて動けなくなった。
「大丈夫ですか!」
見ていた私は駆け寄った。
頭から血が滲み始めている。息も苦しそうなので、肋骨のあたりも怪しい。
「ヒール」
呟くと、キラキラと光の粒が倒れた相手に掛かると、みるみるうちに息遣いが落ち着いて、目が開いた。
「あれ?さっきまでの痛みは?」
ケガをした本人が、いきなり痛みが無くなって驚いている。
「どうですか?大丈夫そうですか?」
私が聞くと、視線が合ってびっくりしている。
「黒の乙女様!?」
「はい、ちょっと訳がありまして。ケガが酷い状態だったので治癒させてもらいました。違和感等ありませんか?」
「大丈夫です!ありがとうございます!」
なんだか過剰なくらい、感謝されている気がするが、治ったようでなによりだ。
「ユウ様。今の治癒術もお見事でしたな。あれは、どう治癒を施したか聞いても良いかよのう?」
うん、おじいちゃまはかなり治癒に関しても分かっていて、生徒達にも説明出来そうなのにしないなんて、結構ずるいな。
多分、私のためなんだろうけれど……。
「今回の彼の場合、血が流れた頭に注目してしまうと思いますが、側に行けば彼の呼吸が乱れ息苦しそうなのが分かりました」
私の言葉に、ひとつ頷くとおじいちゃまは先を促す。
「そこで、私はヒールの前に無詠唱で彼の胸部から腹部にかけてのケガが分かるようにサーチを使いました。そして肋骨が折れて肺を圧迫している事に気付き、それが癒えるようヒールを使ったのです」
私の言葉に教師陣含め、最終学年に席を置く学生達も驚いている。
「では、ユウ様。サーチではユウ様にはどのように見えるのです?」
担任のキャレド先生が聞いてきたので、私は私のサーチで見た物を皆さんにも見えるように可視化、知識の共有を行うことにした。
つまり、現代のレントゲン写真みたいな感じで画像の共有である。
いきなり、目の前に浮かんだ映像に驚いた後に、その映像をマジマジと見つめる。
皆が注目したところで、私は話し始めた。
「これが、さっきの彼の状態。ここを見ると分かるけれどこの左の肋骨ここ、線が入っているの。ここが骨折箇所」
みんな、そこをマジマジと見つめ線を確認すると頷いている。
「この肋骨の骨折部分が、後ろに写るこの肺の部分を圧迫していたから、彼の呼吸に問題が出たの。なのでここを中心に治癒術を使ったわ」
そこで、映像を消して皆に言った。
「これは、私なりの治癒術の使い方になると思う。私には、たぶんだけれどこの国の医官見習いさん位の人体に関する知識があるから」
それにはさっきの画像や説明で、納得がいったのか特に周りからどうこうとは声は上がらなかった。
「つまり直ぐに同じことは出来ないけれど、皆も学べばこの治癒術は使用可能だということです」
その私の言葉に、俄然周りの人々の目の色が変わった。
魔法科に通う学生達は、皆わりと知識欲が旺盛で、新しものを貪欲に学んでいく姿勢があるように思う。
なので、編入生な私の話でも、ちゃんと聞いてくれたのだろう。
最初も批判的というより驚きと、その工程への興味の方が強そうだったから。
つまりは、ここにいる面々は結構な魔法馬鹿な可能性が高い……。
「フォッフォ。ユウ様、さすがですのう。皆を乗せるのが上手い。じゃが、皆心得よ。この魔法、一度でかなりの魔力を消費することをのう」
おじいちゃまの言葉に、この場の学生も、何故か覗きに来ていた他の騎士科や下の学年の魔法科生も先生も、ピシッと固まっていた。
「さて、ユウ様。つかぬ事を聞きますが、今疲れや脱力感や眠気はありますかな?」
そんな周りは放置気味におじいちゃまは私の状態を聞いてきたので、サラッと素直に答えておく。
「全く問題なく、元気です。疲れも眠気もありませんよ。むしろまだまだ色々出来ますけど、どうします?」
そんな私の返答に、魔法が使える周囲の者はギョッとしていた。
「さすがは黒の乙女ですなぁ。そういったわけで、ユウ様は我々とはそもそも魔力量が違う事を忘れないように」
ニッコリ笑って言ったおじいちゃまの言葉に、周囲は深く頷いて今回の治癒術の実地は幕を閉じた。
学園初日から、色々とやったおかげで、黒の乙女と治癒術における実力は間違いないことを周囲も認識してくれて、なんとか学園生活はスタートを切った。
もちろん、その日に帰宅してシャロンさんから報告を受けたクリストフさんやマリアさんにちょっと注意を受けた。
「ユウの力はかなり強いのだから、使い方を違わないように気をつけなさい」
そう言われたのだった。
まさかこの初日からの行動で魔法関係で一気に売り込み合戦になるなんて、予測していなかったから。