仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
ユーリスが鬱々とした日々から一転したのはその翌日のことだった。
今日の夜はとうとう仮面舞踏会。昼間の庭園では主要貴族の茶会が催されていた。
この忙しいときに!と舌打ちをしたいところだが茶会は前もって予定されていたもので、皇帝の鶴のひと声で急遽仮面舞踏会が開かれることになったため予定をずらすことができなかったのだ。
やはり皇帝が一番厄介だ。
茶会の様子が見える渡り廊下を歩いていたユーリスは結局舌打ちをした。
それよりも急がねばと止まっていた歩みを速めようとしたとき、見覚えのある小太りの男性を見つけ驚いた。仕事も忘れてその男性の許へと急いぐ。

(あれは侯爵以上の主要貴族の茶会のはずだ、男爵がなぜここにいる?)
立食形式の茶会で数人とテーブルを囲み談笑しているのはフローラの父アーゲイド男爵。彼はいつものように汗を拭きつつ楽しそうに笑い盛り上がっていた。
会場の中をユーリスが横切っていくのを見つけた貴族たちがどよめく。そんな周りの喧騒を気にも留めずユーリスは男爵の後ろに立った。
周りの貴族たちが異様なオーラを放つユーリスに気づいて後ずさりし、男爵だけは気づかず呑気に娘を売り込んでいた。その言葉に胸がざわつく。
「いやあ、娘は見た目ほどおしとやかではないんですがね、親の欲目ではありますが亡くなった妻に似て美人で優しい子なんですよ。自慢の娘なのです。よい嫁ぎ先を探しているところでして」
どうです?候爵さまのご子息に。と笑顔で横を向いた男爵は候爵の引きつった顔にやっと後ろの黒いオーラに気がついた。
「ヒィィ!ヒルト伯爵!?」
「アーゲイド男爵、少しお話したい。よろしいですか?」
「はっはいい」
ユーリスの地を這うような低い声に男爵は縮み上がり嫌とは言えずに先を行くユーリスについて行く。
その姿を周りの貴族たちはポカンと見ているだけだった。

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