仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
男爵がまだこの宮殿内にいたことが幸運に思えるほどユーリスはどうしてもフローラに会いたかった。このチャンスを逃したくない。
「フローラ嬢に会うお許しをいただきたい。お願いしますアーゲイド男爵」
「あの、その……だめです!」
「は?」
「フローラには会わせません。どうしてもとおっしゃるなら、皇帝陛下にお許しをもらってください」
やんわり断っても諦めてくれないユーリスに困り果てた男爵は破れかぶれだとでもいうように皇帝の名を出した。
始めフローラとの婚約を持ち掛けたのは皇帝なのだから話をすることは必要だろうが、会うのに許しを請わないといけないのはなぜなのかユーリスは解せない。
「陛下に?なぜ?」
「そ、それは……」
せわしなく汗を拭く男爵に懐疑心を膨らませるユーリスは至って冷静に聞き返した。
「いいでしょう、皇帝にお許しをもらうことにします。その時にはご令嬢に会わせていただけるんですね?」
「はっはいい!」
目を細め凄むユーリスに男爵はもう卒倒しそうなほど青い顔をしていて少し可哀想になってきた。
ここらで解放してあげたほうがよさそうだと思ったユーリスは最後にひとつ聞きたいことがあった。
「わかりました……ところで男爵」
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