仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う

「おお!ユーリスどこに行っていたのだ探したぞ」
ユーリスは能天気に大手を振る皇帝の許に行くと真剣な顔で対峙する。
「陛下、フローラ嬢に会わせてください」
「なんだ唐突に」
「先ほどアーゲイド男爵に会いました。まだアーゲイド男爵は宮殿にいますね?ということはフローラ嬢も宮殿に滞在しているのでは?」
「なんのことだかな?言ってる意味が分からない」
「陛下、とぼけないでください」
すっとぼける皇帝にユーリスはイラっとしながらも務めて冷静を心かけた……つもりだった。
「それよりユーリスもうすぐ舞踏会が始まる!早く支度をしろ」
「ジェイ!話をごまかさないで!」
早く早くと言わんばかりに背中を押されユーリスは思わず子供のころから言い慣れた皇帝の愛称を叫ぶ。
「ユーリスにその名で呼ばれるのは久しぶりだな」
ふっと懐かしむように微笑んだ皇帝は容赦なくユーリスを部屋へ押し込んだ。
「お前は新しい出会いのために仮面舞踏会に出るのだ。フローラのことなど忘れなさい」
「なっちょっ!なにするんですか!」
押し込まれた部屋には三人の侍女が待機していた。
ワキワキと指を動かしやる気満々の侍女たちにユーリスの顔は恐怖に染まる。
「かの氷の貴公子さまのお支度をさせていただくとは腕が鳴りますわ!」
「え、いや、支度などいらないから!うっうわっ!やめろ~~~!」
燃えるような目にロックオンされたユーリスは侍女たちに取り囲まれされるがまま情けない叫びがこだまする。
「ふっふっふっこんなユーリスを見るのは初めてだな」
高みの見物をしている皇帝の前に、きらびやかな夜会服を着たユーリスが現れた。
ゼイゼイと荒い息を吐き疲れた顔をするユーリスとは正反対に満足げな侍女たち。
「私は、仮面舞踏会には、出ませんからね!」
「ユーリス、まだ言っているのか?この仮面舞踏会に出なければお前は後悔することになるぞ?」
「後悔なんっ、て!なにをするんですか!」
文句を言おうとしていたユーリスの仮面を皇帝はサッと奪ってしまった。
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