仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う

仮面舞踏会

「ったく、なにが魔法のアイテムだ。子供騙しにもほどがある!」
皇帝に悪態をついてすでに大勢集まる舞踏会会場を見回す。
華々しく着飾った男女がユーリスの仮面に負けず劣らず派手な仮面をつけ舞い踊り酒を片手に語らっている。
遅ればせながらやってきたユーリスに騒ぐこともなく、皆この仮面舞踏会を楽しんでいるようだ。自分だけ悪目立ちはしなさそうなのでそれだけはホッとした。
(皆が同じように仮面をつけているから、いつもの仮面と違うだけで私とは気づかれないのか)
普通の舞踏会に出ようものなら珍獣を見るような目で見られていたユーリスもこれには少しほっとした。
なんとなく、自由を手に入れた気分なのは気のせいか?注目されないだけでこんなに心が軽い。
気分はいいが、しかし長居は無用。適当に時間を潰して帰るかと、ボーイから受け取ったシャンパン片手に何気なしに辺りを見回した。
身分階級関係なく優雅に舞い、楽しげに語らう男女。確かに出会いの場にはなるがまったく酔狂だ。
公では女性から男性に声を掛けるなどはしたないとされているが今日はやはり無礼講とあって積極的な女性が多い。ユーリスが歩いていると次々と女性から声をかけられ顔が引きつる。
立ち居振る舞いだけでも洗練されているユーリスに女性たちは引き寄せられているのだが、仮面で誰だかわからないだろうによく誘えるものだとユーリスは冷笑する。
もちろん相手にするつもりもなく、断るのも一苦労だと肩を竦め歩いていると、一人の青いドレスを着た黒髪の女性に目が留まった。
後ろ姿だが凛とした佇まいになぜか気を持ってかれた。
結い上げた髪で顕になった項がやけに艶めかしい。
つい注目していると一瞬だけキョロキョロと挙動不審になり、また落ち着きを取り戻したように背筋を伸ばした。
どうやらこういう舞踏会は馴れていないようだ。
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