仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
***

『いい?フローラ。どんなに心細くとも動揺していても態度に出しては駄目よ。淑女たるものいつでも背筋を伸ばし気品を保たなくてはいけません』
(はい、お母さま。背筋を伸ばし気品を心がけます)
フローラは母の教えを思い出し気を張り詰め佇んでいた。
でも、仮面舞踏会は異様な雰囲気で思わず素が出てしまう。
(誰も知らないところへ放り込まれるとさすがに動揺しちゃう)
一瞬キョロキョロと辺りを見回し、いけないいけないとまた背筋を伸ばす。
本当は舞踏会に出るのは気が進まなかったものの、皇帝にいいからいいからと宥められ、皇妃には綺麗にして差し上げますわ!と張り切って豪華なドレスを用意され、押しの強いふたりにされるがままここに来てしまった。
『今日の出逢いを大切にしてね』
舞踏会に送り出されるときに皇妃にかけられた言葉が頭の中をくるくる回る。
出逢い、と言われても今はユーリスのことが頭から離れなくて新しい出逢いなど望んではいない。
忘れられないと言ってもいいかもしれない。
今は罪悪感よりもひと目でもユーリスの姿が見たいという切望の方が大きい。
後宮にいるのだから仕事をしているユーリスをこっそり遠くから見ることも可能だったけど、なぜか皇帝にも皇妃のも止められていたためにますます会いたさが募っていた。
もし、ユーリスが仮面をつけてる状態でフローラだとはわからずにダンスに誘ってもらえたらどんなにうれしいだろう。フローラもユーリスとわからないかもしれないけど。
今日、もしかしたら会えるかもとこっそり期待していたのだが、ユーリスはこの仮面舞踏会に出ないと聞いた。
がっかりしたフローラは、ならここにいても仕方がないと思って、早々に帰ろうと思った。
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