仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
出口に向かおうと踵を返したところでクジャクの羽で装飾された仮面の男性に声をかけられた。
「そこの蝶の仮面のご令嬢、おひとりですか?」
「え?」
「私もひとりなのですよ。少しお話しませんか?」
声をかけられて無碍にはできずに少しだけならとフローラは頷いた。
「仮面舞踏会など皇帝陛下も酔狂なことをなさると思いましたが、なかなか面白いですな。私は普段声を掛けられるばかりで自ら女性に声をかけるなど下賤なことはしないのですが、いつもと違って仮面をかぶっているだけで大胆になれた気がしますよ」
「そうですか。それが皇帝陛下の狙いなのかもしれませんね」
顔が引きつりそうになるのを堪えて笑顔で受け答えする。
謙遜してるようで自慢話をしてくるこの男性はやけになれなれしくてフローラはこういう男性は苦手で早くこの場を去りたかった。
そこへタイミングよく男性の知り合いらしい女性が話しかけてきてふたりで話している隙に離れようとした時だった。
「ご令嬢、私と踊っていただけますか?」
「え?あの」
フローラは手を取られ攫われるようにダンスの繰り広げられるホール中央に誘われる。
急にこんなことをされて嫌だと思うより、苦手な男性から助け出された安心感の方が勝っていた。
流れるように腰を抱き寄せられ曲の途中からダンスが始まる。
戸惑いつつも必死でついていこうとステップを踏んだ。
(この人は誰なのだろう?)
音楽に身を任せ余裕が出てきたフローラは考える。
背格好がユーリスに似ていてドキリとしたが、ユーリスの趣味ではない夜会服と顔の大半を覆うバラの仮面でよくわからなかった。オールバックの髪形は少し年配の男性に多いことからフローラよりだいぶ年上なのかもしれない。
フローラは仮面から覗く彼の瞳を見つめてなぜだかこの男性のことをもっと知りたいと思った。
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