仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
不意に薔薇の君は夜空に浮かぶ月を見上げた。
「あなたを見てるとある方を思い出します」
「ある方?」
「ええ、あなたのように気品と無邪気さを併せ持つような素敵な女性でした。しかし、私の愚かな誤解から心無い言葉で傷つけてしまった」
「そんな、あなたが心無い言葉だなんて」
「私の中には言い難い醜い感情が渦巻いているのです。それを彼女にぶつけてしまって、後悔した時には会うことも叶わずそれきり」
「まあ……」
ふっと嘲笑するように笑い肩を落とす薔薇の君に、フローラはなんて言っていいのかわからず絶句。
「毎日懺悔の日々ですが、今彼女はどうしているのかと気になって仕方がないのです。せめてもう一度会える機会があれば心から謝罪したい」
俯き心から反省してるようだった薔薇の君は顔を上げフローラを見据える。
「もし会える機会があるとしたら、その女性は会ってくれるだろうか?ユリシスはどう思いますか?」
「私、ですか?」
「ええ、女性の意見を聞きたい」
薔薇の君の話はまるで自分のことのようでフローラも身に詰まされる思いがした。
真剣な目で答えを待っている薔薇の君に、フローラはどう答えようかとしばし考える。
もし、ユーリスにもう一度会いたいと言われたなら……。
「会ってくれる気がします。誠実に謝罪したい気持ちがあれば彼女もわかってくれるのではないでしょうか」
「そうですか」
短い時間の中でも薔薇の君との会話、気遣い、雰囲気がどれをとっても誠実そうに見えて心無いことを言ったなんて信じられない。きっと誤解が解ければ彼女も薔薇の君を許してくれるとフローラは思った。
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