仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
***

とある昼下がりの宮殿の中庭で、木陰に佇む亜麻色の髪の女性に仮面を被った男性が近づき声を掛ける。
「フローラ」
「ユーリスさま」
呼ばれて振り返ればフローラは満面の笑みで出迎え、ユーリスも微笑むとポッと頬を染めはにかむ姿を愛おしそうに見つめた。
ヒルト家にまた泊まることになって以来、ユーリスとフローラは毎日ふたりで宮殿へ通い昼休みにはいつもこの中庭で落ち合い束の間のデートを楽しんでいる。
日中の仕事時間以外ほとんどを共にして愛をはぐくむふたりは自然と腕を組み中庭を歩き出す。

最近見かけるようになった仲睦まじいふたりを見て令嬢たちが信じられないといった顔でひそひそと噂する。
「見て、ユーリスさまと婚約者のフローラさまよ」
「氷の仮面の貴公子さまが……」
「あんなにやさしそうに微笑んでいるわ!」
ユーリスは気づいていないが、あんなに自然にほほ笑むのはフローラの前だけだった。
普段は気難しい顔ばかりで声を掛ければ冷徹な視線しか向けることのないユーリスの微笑みは貴重で令嬢たちははああ~と羨ましげにため息をつく。
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