仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
***

「ユーリスさま、ほらカモミールの花が満開です」
宮殿にある菜園に行くと、ハーブが育てられている花壇で黄色い筒状花に白い花弁のカモミールが群生しているのを見てうれしそうに駆け寄ったフローラはしゃがんで花に顔を近づけ香りを堪能する。
「フローラはほんとに花が好きだな」
フローラの横に立ってふふっと笑うユーリスもしゃがんで花の香りを嗅いでみる。
「りんごのような甘い香りがしませんか?」
「ああ確かにする。不思議だな」
「ハーブティーにするともっと香りが楽しめますよ。リラックス効果もあるので寝る前に飲むとぐっすり眠れるんです」
「そうか、フローラは物知りだな」
「そんなこと、ないですよ?」
隣で甘く微笑むユーリスにフローラはポッと頬を染めて目を泳がす。
あの皇帝一家の前での告白からユーリスは人が変わったようにフローラに優しく甘くなった。
今ももじもじするフローラの愛おしそうに見つめるのだ。
フローラはいつもドキドキして心臓が休まる暇がない。
でも幸せでうれしくてフローラはユーリスに負けないくらい愛おしげな瞳でユーリスを見つめ返した。

お互い無言になり引き寄せられるように近づくと瞳の中に自分の姿が映り込む。
ハッと我に返り立ち上がったユーリスは、キョトンとした顔で見上げてくるフローラに遠慮がちに手を差し出すと、おずおずとその手にフローラの手が乗り立ち上がらせそのままふたりは歩き出した。
手袋越しでも華奢な手がきゅっと握り返されるのを感じてユーリスの心はふわふわと和む気がする。
これが素手であったなら細い指をもっと感じて和むどころか心は暴れ出すに違いない。
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