仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
「フローラ!」
名を呼ばれて目を向ければユーリスが険しい顔で走り寄ってきた。
フローラを庇うようにジェームズの前に立ちはだかると冷気の籠る目で睨み凄みの利いた低い声で唸った。
「彼女に何の用だ」
その威圧感にまた一歩引いたジェームズは冷や汗をかきながらぎりぎりと歯噛みする。
「私は!お前の醜い本性を教えただけだ!お前はフローラ壌を騙し……」
「ユーリスさまは醜くなんてありません!あなたの目は濁っている、あなたの方がよっぽど心が醜いわ!」
ユーリスが口を開く前に後ろにいたフローラが背中に縋り付き、横から顔を出してジェームズに向かって辛辣な抗議をした。
それに驚いたのはユーリスで、後ろを振り返り涙目になっているフローラを見下ろした。
一瞬の沈黙の後、ジェームズは舌打ちをしてすごすごと帰って行き、それを見送ったユーリスは腕を握る華奢な手をポンポンと撫でた。
「あんなに怒るなんて、君にはいつも驚かされる」
「でも!ユーリスさまを疑うなんて、あんな言い方酷い……」
クスっとユーリスに笑われてフローラは頬を膨らませ顔を上げると振り返ったユーリスの指に目元を拭われた。
ビオラの刺繍が小さく縫われている白い手袋の指先に涙が吸い込まれていく。