仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
離れがたいと思いつつ、落ち着いてきたフローラの肩を引き顔を見合わせたユーリスはまだ赤みの残る頬に愛しさを堪えつつ真剣な顔をした。
「フローラ、今日は帝国警察の事情聴取があるから一緒には帰れない。ベリルに迎えを頼んだから一緒に帰るように」
「え?ユーリスさま、それは」
一気に不安な顔をするフローラの艶やかな亜麻色の髪を撫で笑みを見せて言い聞かせた。
「フローラも知っているだろう? あの事件は立て続けに三件も起きているが犯人の手掛かりは目撃証言しかなく警察も手をこまねいている。少しでも可能性があれば調べるのは当然のこと。私は犯人ではないが協力しようと思う」
「でも、でも、そうしてしまったら……」
先ほどのジェームズの話を聞いて、少なからずユーリスを疑っている者がいて、彼らにしたらユーリスが事情聴取を受けたと知れば、さも犯人だと言いふらすに違いないとフローラも気づいて不安が募る。
「大丈夫だ。私は無実なのだからなにも起りはしない。信じて待っていてくれないか」
首を傾けのぞき込むようにフローラを見つめるブルーの瞳はどこまでも透き通っていて眼差しは柔らかい。
顔の全貌がわからなくてもそんなユーリスの瞳が大好きなフローラはしっかりと見つめ返し胸がいっぱいになる。
(ユーリスさまは清廉潔白。なにも悪くない、なにも起こらない)
フローラは自分に言い聞かせるように心の中で呟いてこくりと頷き、ほっとしたように微笑んだユーリスに笑顔を見せた。

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