仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
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「ユーリスさまはまだお帰りにならないのかしら」
ひとりごちたフローラは夜空の見える窓辺に椅子を持っていき座ると、窓辺に肘をつきずっと玄関前の庭を見つめていた。
ヒルト邸に帰り夕食も済ませベリルやマリアから就寝の挨拶をされた後もユーリスの帰る気配はなかった。
いったい事情聴取でどんな話をしてるのだろう。
ユーリスは決して犯人ではないのだからすぐに帰ってくると思っていたのにいまだに帰らないことに不安が過る。
「大丈夫、ユーリスさまは何も悪くない、何も起こらない」
心で呟いたことをもう一度言葉にして、信じて待とうと夜空を見上げ微笑むユーリスを思い出した。
最近笑顔が格段に増えたユーリスにときめきが止まらないフローラは額にキスされたことを思い出してボッと火が付いたように顔が赤くなった。
「くぅ~~……」
額を両手で隠しひとり悶える。そっと額に触れる柔らかな感触は今でも覚えている。
ユーリスはいつも隣で微笑み、優しく甘やかになったとはいえ、腕を組んでエスコートはあってもそれ以上の触れ合いはなにもなかった。
手を繋ぐのでさえ手袋越しで、正直それを寂しく思っていたフローラはいきなりのキスに動揺したけど本当はとてもうれしかった。
だから、このことををきっかけにちょっとだけ勇気を出してお願いをしてみようと思ってる。
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