仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
食後は自室に籠りたかったがベリルのお膳立てで、結局いつものように居間に行きフローラと話をすることになった。
フローラも逃しはしないと言わんばかりに腕に巻き付き離れない。
観念したユーリスとソファーにふたりで座るとフローラがむき出しの右手をまた労わるように撫でてきて、それが嫌ではなくトクトクと逸る心臓を感じてひとつため息をついた。
「本当は無意識のうちに私が殺したのかもしれない」
「え?」
突然の物騒な話にフローラは驚いて顔を上げユーリスを凝視する。
それでも右手から離れなかった手を見つめてぽつりぽつりと昨日の出来事を話し出した。
そして以前自分が見た夢の話もする。
ユーリスの心の中には狂気がある。
それをフローラに知らしめて自分から離れるように仕向けたかった。
残酷な話に眉を顰めるフローラを見ないようにユーリスは顔を背け胸が苦しくなる。
「自分の顔を見た途端悲鳴を上げる女性の首を苦い気持ちで絞めていた。私を拒んだ婚約者たちをもしかしたら恨んでいたのかもしれない」
「そんなわけありません!」
弱音に近い告白にフローラは声を荒げて否定した。
それに驚き顔を上げたユーリスにフローラは怒ったように訴えかける。
「貴方は優しく冷静で強い理性の持ち主です。絶対人に手を掛けるような方ではありません」
「私の心の中には強い劣等感と欲望が渦巻いているというのに君は私の何を理解しているというのだ」
フローラは何もわかってはいまいとユーリスも眉間にしわが寄る。
「私は君にも言い知れない欲望を持っていた。何度君を自分のものにしたいと思ったか。でも私の正体を見た君が恐怖に慄き逃げていくのを想像するたび怖くなって手を出せなかったのが本音だ。私の狂気は異常なんだ。私に襲われる前に即刻出て行った方がいい」
握られていた右手を振り払いこれでもかと脅した。
なのにフローラは怖がるどころかキッとユーリスを見据えた。
「そのように冷酷な態度を取って人を寄せ付けないようにしていても、貴方の優しさも寂しさも我慢強さもずっと一緒に過ごしていればわかります。貴方は心の強い方です、狂気などありはしない」
なにを言っても否定してくる、いや、ユーリスを肯定してくるフローラにユーリスも焦れてきた。
嬉しいはずの言葉はユーリスには届かずに、ただただフローラを遠ざけたくて、最後の手段とばかりに頑なに見せられないでいたすべてを曝け出す。
フローラも逃しはしないと言わんばかりに腕に巻き付き離れない。
観念したユーリスとソファーにふたりで座るとフローラがむき出しの右手をまた労わるように撫でてきて、それが嫌ではなくトクトクと逸る心臓を感じてひとつため息をついた。
「本当は無意識のうちに私が殺したのかもしれない」
「え?」
突然の物騒な話にフローラは驚いて顔を上げユーリスを凝視する。
それでも右手から離れなかった手を見つめてぽつりぽつりと昨日の出来事を話し出した。
そして以前自分が見た夢の話もする。
ユーリスの心の中には狂気がある。
それをフローラに知らしめて自分から離れるように仕向けたかった。
残酷な話に眉を顰めるフローラを見ないようにユーリスは顔を背け胸が苦しくなる。
「自分の顔を見た途端悲鳴を上げる女性の首を苦い気持ちで絞めていた。私を拒んだ婚約者たちをもしかしたら恨んでいたのかもしれない」
「そんなわけありません!」
弱音に近い告白にフローラは声を荒げて否定した。
それに驚き顔を上げたユーリスにフローラは怒ったように訴えかける。
「貴方は優しく冷静で強い理性の持ち主です。絶対人に手を掛けるような方ではありません」
「私の心の中には強い劣等感と欲望が渦巻いているというのに君は私の何を理解しているというのだ」
フローラは何もわかってはいまいとユーリスも眉間にしわが寄る。
「私は君にも言い知れない欲望を持っていた。何度君を自分のものにしたいと思ったか。でも私の正体を見た君が恐怖に慄き逃げていくのを想像するたび怖くなって手を出せなかったのが本音だ。私の狂気は異常なんだ。私に襲われる前に即刻出て行った方がいい」
握られていた右手を振り払いこれでもかと脅した。
なのにフローラは怖がるどころかキッとユーリスを見据えた。
「そのように冷酷な態度を取って人を寄せ付けないようにしていても、貴方の優しさも寂しさも我慢強さもずっと一緒に過ごしていればわかります。貴方は心の強い方です、狂気などありはしない」
なにを言っても否定してくる、いや、ユーリスを肯定してくるフローラにユーリスも焦れてきた。
嬉しいはずの言葉はユーリスには届かずに、ただただフローラを遠ざけたくて、最後の手段とばかりに頑なに見せられないでいたすべてを曝け出す。