仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
不意に顔を上げたユーリスはゆっくりとフローラを抱き起した。
「この先は、結婚するまで取っておく」
「え!?あの」
ユーリスは柔らかく波打つ亜麻色の髪を撫でた。
「君の初めてをなし崩しに奪ってはいけないだろう? しかるべき日にちゃんとベッドで愛したい」
「っ!ユーリスさま!恥ずかしいっ」
耳元で囁かれてフローラは顔を手で隠して羞恥心に見悶えた。
そんな姿がかわいくて仕方ないユーリスはフローラを抱き寄せてくすくす笑う。

実は、笑いながらもユーリスは危なかったと思いほっとしていた。
本音はこのまま抱いてしまいたかったが、ふとニヤニヤする皇帝の顔がちらついてハタと思い止まったのだ。
あの目敏い皇帝が勘づかないわけがない。
結婚前になにやらかしてるんだとからかわれ、また根掘り葉掘り聞かれて卑猥な話を聞かせられるに決まっている。それはごめんだ。
残念だがフローラと愛し合うのはもう少し我慢するしかないだろう。

真っ赤な顔を隠して恥ずかしがっていたフローラが指の隙間からちらりと見てきた。
目が合うと自然と笑いあってそれだけで幸せだった。



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