仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
ユーリスはそれを聞いて事情を話してくれればそれなりに対策を取って協力もできたというのに、なにひとつ話してくれなかった皇帝にいいように使われたと半ば裏切られた気持ちでいっぱいだった。
悪かったな、と反省してなさそうな皇帝に苦虫を噛み潰すユーリスは文句の一つも言ってやらないと気が済まない。
「私に黙って真犯人を割り出そうなど私はそんなに役立たずですか? 陛下の信頼を得ていたと自負していたのですが、間違っていたようですね」
拗ねたような言い方に皇帝も苦笑いで取り繕う。
「お前に余計な心配を掛けまいとした私の優しさをわからないとは悲しいな。ま、でも私のおかげでフローラとは上手くいったみたいじゃないか」
不安そうにしていたフローラを気遣いずっと手を繋いだままだったユーリスは皇帝がその手を見てにやにやしているのに気づいて照れてそっぽを向く。
そこにこそッと耳元で囁いた。
「で、どうなんだ?どこまでいった?」
「っ、なにもお教えすることなんてありません」
「またまた~すっきりした顔しちゃって、なにかあったのはバレバレだぞ~?」
そう言った途端ユーリスの顔が赤くなり、心配そうな顔をするフローラに見られて目が泳いでいた。
(くくっ、わかりやすいやつ)
昨日のバリモア公爵の取り調べに付き合わせていたらこんなにフローラと仲睦ましくはならなかっただろうに、と、それでも手は離さないでいたユーリスを見てにんまりする皇帝。
「さて、ユーリスは今日もフローラと一緒にもう帰れ。ちょうどいい機会だ、そろそろ結婚式の話もしなくてはならないだろう?」
「こんな時になにを言っているんですか?私は不用だと?」
「そんなことは言っていない。明日からは馬車馬のように働いてもらう。今日は言わば事件解決の立役者となったユーリスに休日のご褒美だ。有難く受け入れろ」
納得していないユーリスの背中を押しへらへらとした笑顔で執務室から追い出した皇帝はスペンサー侯爵と目を合わせた。

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