仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
「ほんとに、陛下は過保護ですねえ」
スペンサー侯爵は顔を引き締めた皇帝にくすくすと堪え切れずに笑いを漏らした。
ふんと鼻を鳴らして腕を組み執務机に腰かけた皇帝。
「あんなバリモアの言い分などユーリスに聞かせる必要もない」
昨夜早速バリモア公爵と息子のジェームズを取り押さえ皇帝自ら取り調べを行ったが、ユーリスに対する馬事雑言の数々に皇帝は頭の血管が切れそうになった。
侯爵も皇帝に負けず劣らずユーリスには過保護で、バリモアの言い分に腹を立て皇帝よりも容赦なく厳しい取り調べをした。
今後もユーリスにバリモアの件を関わらせないわけにはいかないだろうが、出来ればバリモアの聞くに堪えない身勝手な言い分など聞かせて煩わせたくはない。
それに、ユーリスはもう昔のことだと話を蒸し返すことを嫌うので、彼には内緒でバリモア公爵には十二年前に起こった襲撃事件の話も聞き出したかった。
どうしても解決したかったユーリスの両親が亡くなった襲撃事件。
やっと聞き出したバリモア公爵の証言によればそれは今は亡くなってしまった先代のバリモア公爵で現公爵は関与してないらしい。
『私は何のかかわりもない』と余裕ぶっていた公爵にこれ以上は追及できそうにないと知り皇帝は悔しい限りだった。しかし頭の切り替えの早い皇帝は次の事柄に意識が向く。
「さあ、私は今回の事件を早く終わらせて、ユーリスとフローラの結婚式の話をしたいのだ。さっさと終わらせるぞ」
皇帝はこの後もバリモアの事情聴取に立ち会うが、頭はもうふたりの結婚式の妄想で浮かれている。
これはどうやら結婚しても皇帝のおせっかいは止まらないみたいだとスペンサー侯爵は苦笑いを零して後に続いた。

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