仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
***
家に帰されてしまったユーリスはフローラとふたりで居間のソファーに座りお茶を飲んでほっとため息をつく。
後味は悪いけど事件が解決してよかった。
しかし不満の残るユーリスは憮然とした顔でフローラは心配になる。
「ユーリスさま、陛下のしたこと、怒ってますか?」
何も知らないユーリスを囮にしたのは少々乱暴な気はするが、ユーリスを想ってのことだとはフローラにも伝わった。
それでも何も知らされていなかったユーリスは裏切られた気持ちになってしまうのは仕方がないだろう。
でも兄弟のようなふたりの関係がこれで壊れてしまうのは忍びない。
フローラの心配に気づいたのか、ユーリスはゆっくりと首を横に振る。
「いや……そうだね、怒ってはいるが、許せないわけじゃない。陛下の思いやりはときに過剰だから」
皇帝は昔からユーリスに対して過保護なところがあった。
それは襲撃事件で大火傷を負ってしまった頃から特に顕著に表れた。
皇帝なりにあの件に関しては思うところがありユーリスを慮っていることはユーリスにも気づいている。
バリモア公爵が関わっていると知った時点で皇帝は襲撃事件のことも蒸し返しただろうことも気づいていた。
だから余計にユーリスには関わらせたくはなかったのだろう。
皇帝の目の下には隈があり昨日の取り調べは長時間続いたことも伺えた。
「手伝わせてくれたらよかったのに。自分が無理してることをわかっていないのだあの人は」
もう、あれから十二年も経っていてあの頃を思い出して泣くような子供じゃないのに、皇帝にとっては今も弟同然のユーリスを甘やかし守りたい庇護対象なのだ。
もうそれは終わりにして、自分が皇帝を守らなくてはいけない立場なのにとちょっと歯痒かったりする。
「陛下に愛されてますね、ユーリスさま」
「やめてくれ。陛下に愛されても鬱陶しいだけだ。もう放っておいてほしい」
「ふふっ、嫌そうには見えませんよ?」
毒を吐きつつも照れたような顔をするユーリスにフローラは微笑ましくなる。