仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
くすくす笑っているとムッとしたユーリスが黙り込んでしまったから、フローラは顔をのぞき込んで大好きなユーリスの瞳を見つめた。
ユーリスが怒っていたってフローラはちっとも怖くない。
それより透き通った綺麗なブルーの瞳が自分を映し出していてつい魅入ってしまった。
そっと仮面に触れると一瞬ビクッと反応したユーリスだったが大人しく撫でるように触れるフローラの好きにさせてくれた。
そっと仮面を取られ笑顔を見せるフローラにつられてぎこちなく笑うユーリス。
昼間の明るい部屋の中、火傷の痕がまざまざと見えてもフローラは怖がることも目を背けることもせずにっこり笑っている。
長い前髪をすいて火傷痕を優しく撫でるとユーリスはその手の上に手を重ねた。
「ユーリスさまの髪、つやつやで綺麗。頬も痛々しいけどすべすべしてますね。痛みはないのですか?」
「冷気に当たると少し引きつるくらいだが。君は、本当にこの顔が醜いとは思わないのか?」
不安そうに揺れる瞳を見つめフローラは微笑む。
「ユーリスさまが思っているほど酷いものではありませんよ?仮面をしなくてもいいと思うのですが」
もちろんユーリスの火傷痕を見せたくない心情もわかるから無理意地はしたくないけど、素顔を見て嫌な顔をする者はこの屋敷の中にはいないだろう。
せめて屋敷の中では気兼ねすることなく素顔を見せてほしいとも思う。
たいしたことではないとでも言うようなフローラの優しい眼差しにユーリスもホッとして安堵の表情になった。
「君は私の長年の悩みをいとも簡単に解決してくれるのだな。心が軽くなった気がするよ、ありがとう」
「私はなにも。でもそう言ってくれてうれしいです」
皇帝はじめユーリスを慕う者はみな一度は仮面などなくてもと言ったことだろう。でも心の凍ったユーリスには届かなかった。そんな頑なだったユーリスの心を溶かし素直にさせたのはフローラの愛の力なのだろう。
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