仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
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フローラとの結婚式の日取りも決まり、ユーリスは柄にもなく浮かれていたとある日。
宮殿内を歩いていたユーリスは、オーダーしていたウェディングドレスが出来上がる今日、これからフローラと屋敷に戻り試着することになっている。
真っ白なウェディングドレスを着たフローラはどんなに美しいだろう?
想像するだけで顔がにやけそうになるのを堪えながら待ち合わせの中庭へと急いでいたはずなのに……。
女性に呼び止められたユーリスは彼女の顔を見るなりチッと舌打ちしそうになるのを何とか堪え、彼女と向かい合っていた。
まさかの初めての婚約者だった女性と再会。
ユーリスの淡い初恋相手であり、彼女なら自分の素顔を見ても愛してくれるとあの頃のユーリスは信じていた。
しかしそれは裏切られ彼女は彼の顔を見て逃げ出した。
あれから八年。
彼女は数年前に隣国の伯爵家に嫁いだと聞いていた。
呼び止めておいて顔を逸らす彼女に古傷が疼く。
しかしもう昔のことだ、彼女に気持ちが残っているわけもなく、ただただ再会してしまったことを煩わしく感じていた。フローラを中庭で待たせてしまっているので早くこの場を去りたい。
「あの頃は、逃げ出してごめんなさい」
「今更、何を言い出すのです?」
気まずそうな彼女の小さな声に怪訝な顔をするユーリス。
「後悔しているのです。あの頃私は物語のような結婚を夢見る幼稚な子供でした。あなたは魔法に掛けられた可哀想な王子さまで真実の姿はとても美しいのだと思い込んでいたのです」