仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
無碍もなくばっさり切り捨てる毒舌貴公子にやり込められたこんな情けない皇帝を見たら皆驚くだろう。
いつものように静観していた宰相スペンサー侯爵がやんわりと窘める。
「ユーリス、いくらなんでも言い過ぎですよ」
「いえ、この人はこうでも言わないとすぐサボりますから。宰相殿も仕事が片付かなくて困りましょう?」
(まあ、尻を叩いてくれるのは有り難いのだが)
とスペンサー侯爵は心の中だけで思って苦笑い。
ユーリスの父ウィルベルムの上司でもあったスペンサー侯爵は一度は宰相を退位したのだが、ウィルベルムの死をきっかけにまた宰相へと帰り咲いた。
それもこれもユーリスが立派な大人に成長し宰相の座を受け渡すまではと老体に鞭打ちユーリスを指導している。
そのスペンサー侯爵の下に付き勉強中のユーリスはスペンサー侯爵は尊敬し敬うのだが、最上位の皇帝に対しての態度がかなり横柄だ。
いつものことはといえ皇帝が可哀想になり彼を窘めるのだが功を奏することはない。
それを皇帝自身が笑って許していて、ふたりは飄々とした兄に憎まれ口を叩く弟のような関係。
だからスペンサー侯爵も窘めつつも暖かく見守っている。
昔からそんな状況で知っているごく一部の者たちはもう慣れたものだった。

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