仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
しかし、ひとたびユーリスを侮辱するものが現れると皇帝の様子が豹変する。
ユーリスが宮殿の廊下を歩いているときのこと。
蹲る女性とオロオロする男性がいた。
「どうされましたか」
「お、お前は……」
ユーリスを見て嫌悪の表情を浮かべた男性はバリモア公爵の嫡男ジェームズ。
ユーリスは誰もが一目置く宰相補佐官だが、彼の仮面のせいで陰で毛嫌いしてるものも多い。
その筆頭はジェームズ バリモアだろう。
帝国学校の同期だがジェームズはその頃から何事にも優秀なユーリスのことが気に喰わなかった。
苦々しい顔をして黙るジェームズをよそに蹲っていた女性が答えた。
「足を捻ってしまったらしいのです。でも、お兄様はオロオロするばかりで頼りなくてどうしたらよいかと途方に暮れていました」
ジェームズの妹らしい、彼女はポッと顔を赤らめ窺うようにユーリスを見上げる。
「ジェーン!余計なことを言うな!」
憤慨するジェームズに構うことなくユーリスは冷静に彼女に話しかけた。
「そうですか、では私が医務室までお連れ致しましょう、ご令嬢、立つことはできますか?」
令嬢の顔を見れば彼を見て恥ずかしげに頷いた。
女性は皆ユーリスに興味がある。彼女も彼に対し少し恐いものの憧れもあるようだ。
手を差し伸べると令嬢も頬を赤らめその手を取ろうとした。しかしその前にジェームズにたたき落とされる。
「妹に触るな汚らわしい」
「お兄さま!?」
いくらなんでも失礼な態度をとった兄に妹が驚く。
無表情にジェームズを見るユーリス。それが余計に不気味に見える。
いきり立っていたジェームズはすぐ後ろの気配に気づくのが遅れた。
カチャリと金属音が後ろから聞こえ振り向こうとしたジェームズは、きらりと光る剣の切っ先が自分の頬スレスレにあるのに気付いてぎくりと固まった。
ヒッとジェーンが小さな悲鳴を上げる。