仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
「いま、なんと申した」
「陛下」
(なにが起こっている?)
やけに冷静で呆れたようなユーリスの声にジェームズは何が起こっているのか理解するのに時間を要した。
「答えよ、ジェームズ バリモア。いま、彼になんと申した?」
「え陛下……なぜ」
怒りに満ちた皇帝の声に動くことも出来ずに息を呑む。
「陛下、いくらあなたでも宮殿内での抜剣は許されませんよ」
無表情のユーリスが恐れ多くも皇帝に意見するのを聞いてジェームズは冷汗が吹き出す。
「うるさい、私は皇帝だぞ。何をしても許される立場だ」
「それは、まるであなたの嫌いな独裁者が言いそうなセリフですね」
「おい」
イラッとした皇帝にジェームズは縮み上がる。
(お前!頭がおかしいのか!?それ以上言ったら皇帝が余計に怒り狂うだろ!)
と言葉に出さずに顔だけでユーリスに訴える。
そんなピリピリした空気をものともせずユーリスは徐に左手で剣を抑えた。
「ひっ!」
「剣を納めてください皇帝陛下」
ユーリスの揺るがない瞳に皇帝はため息をつき剣を下した。
すかさずジェームズは腰が抜けそうになりながら壁に寄り、立ち上がったジェーンががその腕に縋りつく。
「ジェームズ、次、ユーリスを侮辱するような言葉を吐けば国外追放する。肝に銘じておけ」
「な……!」
いくらユーリスがお気に入りのとはいえそこまでするかとジェームズは憤る。しかし皇帝の剣の腕は最強と謳われる帝国軍司令官をも凌ぐと聞く。その上冷酷な判断を躊躇なく下し必ず実行する恐ろしい一面もある。そんな皇帝のことだ命だって危ぶまれる。
皇帝に刃向って平気でいられるのは今やユーリスと宰相のスペンサー侯爵ぐらいだろう。
「陛下」
ユーリスが諌めてるのが滑稽だ。
「ふん、わかったらすぐさま去れ」
「は、はっ」
ドスの利いた声に縮み上がったジェームズは足を痛めたジェーンを引きずるようにしてその場を去った。

ジェーンは名残惜しそうに振り返る。
美しき皇帝と仮面の貴公子が二人並んでいるのを間近で見れたことに実は舞い上がっていた。
(後でお友達に自慢しよう!)
うふふとほくそ笑む娘の足はもう痛まないようだ。

< 24 / 202 >

この作品をシェア

pagetop