仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
「フローラ!」
フローラが声を掛けようとしたとき呼ばれる声がして振り向いた。
「お父さま」
「おお、フローラなんと美しい!アイリーンの若かった頃にそっくりだ」
フローラの手を取り感激したアーゲイド男爵にたじたじのフローラ。
一年遅らせたかいがありドレスは豪華でフローラにとても似合っていた。
普段無邪気なフローラがこうして着飾ると亡くなった妻に生き写しでアーゲイド男爵は懐かしさで感激せずにはいられない。
しかもここ数日離れ離れだったものだから心配もひとしおだった。
「それはそうと、お前大丈夫か?酷いことされてないか?嫌ならいつでも帰ってきていいんだぞ」
「お、お父さま、落ち着いて。ユーリスさまが」
アーゲイド男爵が我に帰って横にいたユーリスを見上げると、無表情で見降ろされていてびくっと肩を揺らす。
「こ、これはヒルト伯爵。娘がお世話になっております」
「いえ、大事なご令嬢をお預かりしてしまい申し訳ありません」
「い、いえいえ、侍女の居ないフローラをこのように綺麗にしていただいて感謝いたします」
びくびくと怯える男爵にユーリスはため息をついた。
「お父さま、ヒルト家ではとてもよくしてもらってますから安心してください」
「そ、そうか」
にこりと笑ったフローラにアーゲイド男爵は安心したようでホッと胸を撫で下ろした。
「それはそうと、お父さまも、この宮殿で過ごしているのでしょう?大丈夫?」
「ああ、それこそ丁寧におもてなしを受けて恐れ多いくらいだ」
宮殿に滞在するように言われたときは戦々恐々としていたのに、満足げに頷くアーゲイド男爵はずいぶんとエンジョイしているようだ。それにはフローラもホッとした。
暫し話をした後、アーゲイド男爵は親しい友人に声を掛けられ、娘をよろしくと言って離れていった。
< 39 / 202 >

この作品をシェア

pagetop