仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
「皇帝陛下、アーゲイド男爵が参りました」
「これはアーゲイド男爵。わざわざ呼び出してすまないな」
「い、いえ、皇帝陛下。お目にかかれて光栄です」
呼び出したアーゲイド男爵は戦々恐々としていたが無理もない。
謁見の時にひと言ふた言言葉を交わすのがやっとの下級貴族の男爵を皇帝自ら呼び出すなど異例のことだ。
しかもここは後宮の客間で皇帝になんの話をされるのかと不安で緊張感が増している様子。
皇帝は忙しなく汗を拭く少しぽっちゃりとした見るからに人のよさそうな男爵を観察するように見るとソファーに座るよう促した。
皇帝の方がだいぶ年下なのだがその威厳ある態度に男爵は圧倒されてしまう。
侍女が出したお茶を飲みなさいと皇帝に促され、恐る恐るそれを飲んで高級な香りに一息ついた男爵が深く息を吐いた。
落ち着いた様子の男爵に皇帝は男爵のことを聞いた。
既に男爵の人柄や領地については調べがついているのだが、あえて本人からの話を聞くと、なるほど、報告の通り領地管理も順調でこの男も知慮深い。
出世欲もなく自分の利益よりも領民を第一に考え小さな領土ながら安定した統治をおこなっているこの男に皇帝は興味が沸いた。
男爵からは想像できないが彼の美人だという亡くなった妻に似ているという娘も美しく聡明だろう。
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