仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
***

グレイの料理は天下一品。
魚も肉も珍しい野菜もなんでもござれ。
お菓子だってお手の物。
一流の感性と舌でもってあッという間に美味しい料理に変身させる。
ただちょっと、大雑把なのがたまにキズ……。
「グレイ、バターの用意できました。次はどうしますか?」
「おお、じゃ次は砂糖をドバっと入れて」
「ドバっと……」
ここはヒルト邸厨房。
夕食の仕込みをしているグレイに教えを乞いながら、フローラは砂糖の入ってるだろう袋を見つけグレイの仕草のようにひとつかみ掴んでボウルに入れた。
「そして木べらでグネグネとかきまわす!」
「はい」
素直にフローラは木べらを持ってグネグネボウルの中をかき回した。
フローラがグレイに教えてもらいながら作ってるのはユーリスにプレゼントするクッキー。
ユーリスに図書館に連れて行ってくれたお礼になにかプレゼントしたいとマリアに相談すると「では、手作りクッキーなどどうでしょう」と提案してくれた。
暇を持て余してるフローラの気晴らしにもなるだろうという。
ユーリスは意外と甘い物が好きなようで「きっと喜ばれますよ?」と言われればフローラは作りたい!と嬉々として頷いた。

「次は卵を入れかきまわし粉を振り入れる!それはひとりじゃ大変だから俺が手伝ってやる」
「はい、お願いします」
グレイがふるいに入った粉をボウルの上から振り入れる。たくさん周りにもこぼれ落ちるものだからやっべ!と焦るグレイにクスクス笑う。
「私料理は手伝ったことはあるけど、お菓子は作ったことがないの。とても楽しいわ」
「そうかい、俺に任せておきな。世界一うまいクッキーを作らせてやるからな!」
「はい!」
フローラの家のシェフは食事専門でデザートは近くのお菓子屋さんで調達することが多かったため、お菓子を作るのは初めてでだった。
ひとりで作るのは多少心細いもののマリアは忙しそうだったのでお手伝いは断りグレイに教えてもらうことにした。
グレイも料理の仕込みもあるからなるべく手間をかけさせないようにとは思っている。
(ユーリスさまは喜んでくれるだろうか。食べてくれるかな?どんな顔で食べるのだろう)
期待と不安が入り交じるものの楽しくてフローラは時間を忘れて没頭した。

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