仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
「そうら、出来上がりだ」
グレイがオーブンを開けるとプ~ンといい匂いが漂ってきた。
テーブルの上に置かれたトレイには多少形はいびつだけどこんがりと焼けたクッキーが並んでいる。
「わあ、おいしくできたかしら」
「うまいに決まってるよお嬢さん」
得意げに笑うグレイにフローラは笑みを零した。
粗熱が取れた頃、味見をしてみようとホカホカのクッキーをグレイに手渡されワクワクしながら食べようとしたときマリアが厨房に現れた。

「フローラさま、ユーリスさまがお帰りになりました」
「えっもうそんな時間?」
外はまだ明るいが夏の今は日の入りが遅いからそんなに時間が経っていたことに気づかなかった。
「おっといけね、晩餐の用意をしないと」
「私に教えてくれてたから遅くなってしまったわね。グレイごめんなさい」
「いやあなんの。多少晩餐の時間が遅れたってユーリスさまは怒りはしないさ」
ヘヘっと笑うグレイ。マリアは焼き上がったクッキーを見てニンマリと笑った。
「フローラさま、おいしそうにできましたね。お食事ができるまでこのクッキーをユーリスさまに食べていただいてはいかがですか?」
「おお、それがいい。その間にチャチャっと用意すっから」
「そうね。ユーリスさま食べてくれるかしら?」
晩餐前にクッキーを食べたら食事が入らないのではとフローラは心配したが甘い物は別腹だから大丈夫というグレイとマリアに後押しされ、フローラは形の良いクッキーを選び、残りはみんなで食べてと置いていきユーリスの許に持っていくことにした。
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