仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
ミーハーな気持ちで彼の素顔を見てしまったらきっと彼は傷つく。それだけは絶対してはいけないとフローラは強く思う。
「見せていただくのは、いつかユーリスさまが本心から本当の姿を見てほしいと思ったときでいいのです。そして見せていただくときは笑ってください」
「笑え、だと?」
「はい、私は、ユーリスさまの笑顔が見たいのです」

この醜い顔で笑えとは、フローラはおかしなことを言う。それとも醜い顔は最後まで見たくないと言いたいのか?
ユーリスは疑うばかりでフローラの気持ちを素直に受け取れなかった。
でも、少しだけ信じてみたい気持ちもある。
フローラは仮面の下の素顔を見ても恐れることなく笑顔を向けてくれると……。
「そんなときは来ないかもしれないが……、あなたが居たいというのなら好きなだけ滞在するといい。あなたを帰してしまうと屋敷の者たちに恨まれてしまいそうだから」
もう少しだけ、彼女を見てみよう。一緒にいればいずれ彼女の本心も知ることができるはず。
屋敷の者たちを引き合いに出してフローラの滞在を伸ばしたユーリスはそんな言い訳を心の中でした。
「ありがとうございます!ユーリスさま、またいろいろお話ししましょうね!刺繍も豪華な模様ができるように頑張ります!」
朝日が昇るように眩しい笑顔を見せるフローラにユーリスの胸が高鳴った気がした。

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