仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
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「今日は随分と機嫌がいいな?どうした、フローラ壌となにかいいことでもあったのか?」
「なにもありません。通常通りです」
ん?ん?と顔を近づけてくる皇帝を押しやり渋い顔をするユーリス。
確かにフローラと仲直り?できたおかげで悩み事は少し軽減した。
特に浮かれているつもりはないが皇帝はいつもの如くユーリスのこととなると目聡い。
「油を売ってないでほら、書状がまた溜まってますよ。私は文官支部に行ってきますので真面目に働いてください」
まだなにか言いたそうな皇帝に書状を押し付けユーリスはさっさと執務室から出ていった。
あのままあそこにいたら皇帝の追求は免れない。こういうときには逃げるに限る。
ホッと息を吐き中庭に面する廊下を歩いていると前から小太りの男性が歩いてきた。
「おや、これはヒルト伯爵。ご機嫌麗しゅう」
「アーゲイド男爵」
人のよさそうな笑顔を振りまきユーリスの前まで来たのはフローラの父親。挨拶を交わすとアーゲイド男爵は神妙な顔で聞いてくる。
「娘がお世話になっております。フローラは元気にしておりますか」
「ええ、元気にしております」
「そうですか、娘はなにかご迷惑おかけしてませんかね?」
あの子はちょっとお転婆でなにかやらかすからと、男爵はいつものように持っていたハンカチで顔の汗を拭く。
ユーリスは視線を斜め上に上げ考えた。
意外とお喋りで無口なユーリスに果敢に話しかけるフローラ。鶏を捕まえたり、図書館ではしゃいだり、クッキーを作って失敗したと落ち込んでいたり、ハンカチに少し歪な刺繍を施してみたり……と今までの彼女を思い出す。
「いえ、迷惑なことはなにも。家の者とも仲良くやっているようです」
特にアーゲイド男爵に言うことでもないだろう。無難な返答をするとアーゲイド男爵はホッとしたような顔をした。
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