仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
「だってえ、今までの婚約者は皆お前が冷たくするから内面を知る前に逃げ出してしまうじゃないかあ。だから今回は、逃げ出さないように、いや、一緒に暮らしてお互いを知ってもらえればと思ってぇ」
うふっ。と皇帝はいじらしく言っているがまったくかわいくない。皇帝の手を払いながらユーリスは嫌そうな顔で睨む。
それに、逃げ出さないようにというところはユーリスには聞こえないように言っているつもりだろうがしっかり聞こえている。
「まったく、余計なことを」
毎年毎年、いらないというのに婚約者だと令嬢を紹介され、即断ると後がうるさいから暫く付き合うのだが正直面倒で、おせっかいな皇帝には迷惑している。結局最後は破談になるというのにまた余計な労力を使わされると思うとユーリスはため息しか出ない。
「命令だユーリス。フローラアーゲイド嬢を手厚くもてなせ」
「はあ……承知いたしました」
皇帝の命令は絶対。
いつもは憎まれ口ばかりで皇帝のことを邪険にしていてもそういうときだけは素直に従う。
その二人のやり取りをスペンサー侯爵は孫を見るような目で自慢の髭を撫でながら微笑ましく見ていた。
< 7 / 202 >

この作品をシェア

pagetop