仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う

不器用令嬢涙に暮れる

***

「おはようございますベリルさん!」
「おや、おはようございますフローラさま。今日はまた一段と早起きですね」
「ええ、なんだか早くに目が覚めてあまりに外がいい天気だったからお庭を散歩しようと思って」
すっかり支度を整えたフローラはいつものワンピースにケープを羽織ってにっこりとベリルに笑いかけベリルも頬を緩ます。
「それはようございますね。でも外は冷えますよ、ケープだけでは寒くありませんか?」
「ええ大丈夫です。とっても気持ちよさそうだもの。ねえ、ベリルさん。ユーリスさまはもう起きているかしら」
「ユーリスさまですか? そうですね、今から起こしに行くところですが、すでに起きていることが多いですよ」
「あの、私がユーリスさまを起こしに行ってもいいかしら」
「フローラさまが、ですか?」
「ええ、朝のお散歩をご一緒したいと思って。だめかしら」
虚を突かれたベリルはまじまじとフローラを見ると期待を込めたようなキラキラした目と合う。
ユーリスは素顔を見られることを極端に嫌うため屋敷の中でベリル以外彼の素顔を見た者はいない。そのためユーリスを起こしに行くのはベリルの仕事で、彼以外ユーリスの寝室へは入ってはいけない暗黙のルールがある。
今いる使用人たちは皆ユーリスのことを慕っている。だからきっと素顔を見ても逃げ出したりはしないだろう。だからもう少し皆を信用してほしいところだが、醜い顔をさらしたくないというユーリスの気持ちも分かり、皆も気を遣って気を緩められる寝室にはむやみに近付かないようにしている。
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