仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う

数日後、アーゲイド男爵は遅れてホテルに着いたフローラに気が進まないもののあの話をした。
「このお話はお断りしようと思う」
しかしフローラは父を諫めた。
「どうして?皇帝陛下直々のお話なのでしょう?そう簡単にお断りなんでできないのではなくて?」
「そうは言ってもなあ、相手はあの宰相補佐官殿だぞ」
「あの氷の仮面の貴公子さまでしょ?わかっているわ。とても美しい殿方なのでしょう?お会いしてみたいわ!」
「しかし、仮面の下は恐ろしい形相をしているというぞ?」
「昔火事に遭って大やけどを負ったとか。とてもおいたわしいわ。どんな姿であろうと火傷の痕を恐ろしいなどと言うなんてお父さまは随分な偏見をお持ちなのね」

フローラの淑女教育は母がすべて教えてくれた。その中には人を見る目を養う術も含まれる。
人見知りだった幼い頃、見た目の怖そうなおじいさんを前に怯えていたフローラに母は言った。
『いいフローラ、人を見た目で判断してはだめよ? その人の目を見るの。目は口ほどに物を言うのよ。ほら見て、あのおじいさんはとても穏やかな澄んだ瞳をしているわ。怖くなんてないわよ、きっと優しい人だわ』
そう言われておずおずとおじいさんの前に出て挨拶するとおじいさんはくしゃりと笑った。母の言う通りおじいさんはとても優しくてフローラをかわいがってくれた。
それからフローラは母の教えを胸に見た目で人を判断せず人柄を見るようになった。

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