仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
***

「フローラさま。申し訳ありませんでした」
「いいえ、いいえ、みんな私が悪いのです」
申し訳なさそうに深く頭を下げるベリルにフローラは泣きはらした真っ赤な目を伏せ何度も首を横に振った。

あれから、騒ぎを聞きつけたベリルによって一連のフローラの行動をユーリスに説明したものの、ユーリスの怒りは治まらなかった。
何度も冷静にと言っても、私は冷静だと一蹴されフローラの顔を見ることもなく、フローラ嬢には今日中に屋敷を出ていくようにとベリルに言い渡し仕事に出かけて行ってしまった。
最近のユーリスはフローラに気を許しつつあったからきっと大丈夫だと楽観してしまった自分の失態だとベリルは猛省した。もっとユーリスの警戒心を解いてからの方がよかったと後悔したが後の祭りだ。
主人に出て行けと言われてはどうすることも出来ない。

フローラはヒルト家から出ていく支度をして馬車の前に立ちベリルやマリア、グレイ、セドリックと見送ってくれる面々の顔を見回した。
「主人の説得叶わず、追い出すような形になってしまい本当に申し訳ありません」
「私の方こそご迷惑ばかりかけてごめんなさい。皆さんにはよくしていただいて本当にうれしかったです。ヒルト家にいたこの数日間とても幸せでした。ありがとうございます」
「フローラさま……」
マリアは言葉を詰まらせ涙目で唇を嚙んでいる。
「ちょ~っと部屋に忍び込んだくらいで目くじら立てるなんてご主人さまも心が狭いなあ」
ふてくされたようにユーリスに文句を言うグレイ。
フローラは忍び込んだわけではないのだが、その文句には同意しかねる。
勝手に部屋に入り犯罪を犯す者もいるのだから看過はできないのだ。
どうして起こしに行くなんて考えてしまったんだろう。ユーリスにとってフローラは赤の他人、心を開くにはまだ早かった。疑われて当然のことをしたのだと今になって思い至りフローラはさらに落ち込んだ。
「寂しいなあ、せっかく仲良くなれたのにい」
セドリックも残念そうに俯き持っていた帽子をくしゃりと潰す。
「私もです」
みんなの顔を見てフローラの目にはまた涙が浮かぶ。
涙が溢れる前にフローラは馬車に乗り込んだ。
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