仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
(ユーリスめ、女性を泣かせるとは男として言語道断だ)
さすがの皇帝でも今日のユーリスは近寄りがたいほど黒いオーラを纏っていてどうしたのかと思っていた。
ヒルト家より緊急で届いた手紙に今朝の経緯が書かれており、フローラはなにひとつ悪くなく、どうか皇帝の力添えでふたりの関係を修復してほしいという内容が書かれていた。
フローラはヒルト家の使用人たちにも好意的でユーリスとも親しくなりつつあるところだったという。
最近のユーリスの変化を皇帝ももちろん気づいていた。ここのところユーリスは穏やかな表情が増えてきた、それはフローラの影響が多分に大きい。
(きっとユーリスはフローラに惹かれている。だというのにユーリスはなにをやっているのだ)
だんだん腹が立ってきた皇帝はぶつくさと文句を言う。
「寝込みを襲ってくれるなど願ってもないことじゃないか。ユーリスは神経質すぎる。素顔を見られたからなんだというんだ」
ユーリスの素顔を知る皇帝にとっては仮面などなくてもいいと思うくらい素顔を見ることは取るに足らないことだ。周りが騒ぎすぎるのがユーリスを頑なにしている元凶だとわかってはいるが、ユーリスがもっと心を開けばこんなことにはならなかっただろうと思う。
眉間にしわを寄せる皇帝にフローラが困ったように顔を上げた。
「でも、勝手に興味本位で見られるのは誰でも嫌だと思うんです。きっとユーリスさまは私のせいで傷ついてるはずです」
「傷ついているのはフローラだろう。出ていけと怒鳴られたのだろう?女性に暴言を吐くなど紳士にあるまじき行為だ」
「いいえ、ユーリスさまはいつもは穏やかで物静かな方なのに、そんな方を怒らせてしまった私が悪いのです」
フローラはなんと優しい娘なのか。
こんなにユーリスのことを想っているフローラを一時の癇癪で追い出すとは益々ユーリスの所業に腹が立ってきた。
皇帝は泣き崩れそうになるフローラを支え、不貞腐れてるユーリスの顔を苦々しく思い浮かべた。

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