仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
どこを探してもいないアーゲイド男爵とフローラ。
やはり地元に帰ったのか、ならばアストロシカ領に会いに行こうかとも考えたが、仕事を放り出すこともできない。
自分のしでかしたこととはいえ、なにもできないことに歯がゆさを感じる。
最後に見た悲痛なフローラの表情を思い出すと胸が痛い。
(あんな顔をさせるくらいなら、このまま会わずにいた方がいいのだろうか?)
ユーリスは火傷の痕を撫で今までにないほど悔恨の念をいだき深くため息を吐くのであった。

***

(よしよし、だいぶ落ち込んでいるようだな。後悔先に立たずだユーリス、思い知るがいい)
元気のないユーリスを見てほくそ笑むのは皇帝陛下。

ベリル執事とは連絡を取り合いユーリスの様子は逐一報告させている。
ヒルト家の者にはユーリスを責めることは一切するなと伝えてある。責めればきっとユーリスは余計に感情的になり頑なになる一方だ。誰にも責められない状況でユーリスは冷静に自分の犯した状況を把握するだろう。そして取り返しのつかないことをしてしまったと気づいたはずだ。
「さてさて、そろそろ次の段階に移ろうか」
「陛下もお人が悪い」
ニヤリと悪人顔をする皇帝を傍らで見ていたスペンサー侯爵は苦笑い。
皇帝よりことの次第をすべて聞いていたスペンサー侯爵はある意味この状況を楽しんでいる皇帝に物申したいところだが、意地っ張りなユーリスを素直にさせるためだと言われれば止めることもできない。
(ユーリスよ、試練だと思って耐えてくれ)
侯爵は不憫そうにユーリスを見る。
ユーリスは皇帝の悪巧みを知る由もなく頬杖をつき深いため息をついていた。

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