仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
***

「お疲れのようですね、旦那さま」
疲れた顔をして帰ってきたユーリスにベリルは労わるように声をかけた。
疲れているわけではないのだがフローラのことが頭をぐるぐると回り考えすぎて渋い顔をしていた。
私室に入ると丸テーブルに花が飾られていて眉根を寄せる。
「あれはなんだ?」
「ああ、花ですか?最近お元気がないようでしたので少しでも癒しになればと用意しました」
ユーリスの様子にベリルは不要であれば片付けますがと言ったが、ユーリスはしばし考え「いや、いい」と首を横に振った。
「ではすぐにお食事の用意ができますので食堂へお越しください」
ユーリスの後ろでふっと笑ったベリルが部屋を出ていくとユーリスは花に近づきそっと触れた。
フローラが活けてくれたのと同じバラが甘い香りを放っていてきゅっと胸が締め付けられる。
ふと、花瓶の下に敷いてあるドイリーに目がいった。
少し歪な刺繍が施されたそれにユーリスは見覚えがあった。
デスクに向かい一番上の引き出しを開けると同じように歪な刺繍の施されたハンカチが目に入る。
「フローラ……」
ハンカチを持ちぽつりと呟く。
(会って謝罪してそのあと私はどうしたいんだろう)
そのことをずっと考えていたがどうしたいかずっと考えても答えは出なかった。
考えすぎて頭痛がする。額を押さえたユーリスはハンカチをしまい食堂へと向かった。
< 91 / 202 >

この作品をシェア

pagetop