地味同盟~かぐや姫はイケメン達から逃れたい~
「……」

 一先ず言いたいことは言ったようなのに、王子様はあたしをじっと見て留まっている。


 すっごく気まずい。

 何なんだろう。まだ言いたいことでもあるのかな?

 でもあたしからそれを聞くのも……。


 なんて思いながら視線を下にしてじっと待っていると、王子様がやっと口を開いた。



「……髪、長いね」

「え?」


 ……え? それだけ?

 じっと見てたのって、髪長いなぁって思ってただけ?


 逆に驚いて顔を上げると、蕩けるような眼差しと目が合った。

「っ!」

「長い黒髪はいいね。《かぐや姫》みたいだ」

 あたしを見ているようで見ていない目。

 だけど、そんな王子様の表情に既視感を覚えた。


 あ……もしかして……。


 ある一つの記憶に合致するものがあって、あたしは目を見開いたまま固まる。

 王子様はそんなあたしに背を向けて「邪魔したね」と言って去って行った。


 固まっていたあたしはそのまま彼の背中を見送る。

 人垣に近付く王子様の周りには男女問わず人が集まった。

 でも進行方向には人がいないのか、もしくは周囲の人が邪魔にならないようにしているのか。
 王子様は止まることなく進んでいく。

 そうして彼は二階席へと続く階段を上って行った。


 そこまで見届けてから、あたしはやっと椅子に座りなおす。

 注目が王子様の方に行ったため、フッと一息付けた。
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