地味同盟~かぐや姫はイケメン達から逃れたい~
「っ! 久保、くんっ」

 その言葉に。
 その優しさに胸の温かさが増していく。

 涙が、止まらない。


「うっ、わぁぁぁ……」

 久保くんの胸を借りて、あたしはしばらく泣いていた。


 きっと、この涙は髪を切られたからってだけじゃない。

 ここ最近の悲しいと思った出来ごと全てを合わせた涙だ。


 あたしは悪くなくても、あたしが原因で《月帝》と《星劉》の対立は激化している。

 チーム同士だけの対立だったら、気にはなるけどまだ傍観者(ぼうかんしゃ)でいられた。

 でも、ついに今日他の一般生徒にまで被害が出始めてしまう。


 あたしの心はそのすべてを受け止められるほど強くはないし、柳のように受け流すことも出来ない。

 だから、心の容量もいっぱいいっぱいだったんだ。

 抱えきれない感情を涙で洗い流したかったんだって、泣いてしまってから気づいた。


 どうして久保くんの前だと泣けるのか分からなかったけれど、やっと出来た泣き場所はあたしの心に安心をくれる。


 緊張すると言っていた通り久保くんははじめ体を強張らせていたけれど、少しするとそっと背中を撫でてくれた。

 ぎこちない動きのその手は、緊張しながらも慰めようとしてくれているのが伝わってきて……。


 その優しさに、胸が温もりで満たされていった。
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