望月先生は甘くない ~年下ドクターの策略~

あたりまえのように慣れた様子でワインを頼み、目の前で完璧な所作でソムリエが赤ワインを注いでくれる。

本当はフルボディの赤ワインは苦手だが、それを伝えることができなかった私は、乾杯をするとそれを流し込んだ。

喉の奥に渋みとアルコールが広がる。こんな場所と目の前の余裕すぎる人に私はアルコールを自分の許容範囲以上に飲んでいたようだ。

「結婚したら仕事はやめてもいいって書いてあったよね」
登録するときにそう書いたことを思い出す。あの頃は確かにそう思っていた。

「今は楽な場所にいったんだよね? これから時間はつくれるんだよね?」
楽な場所という言葉に少しイラっとしてしまう。確かに外来の方が夜勤などがない分、時間の都合は付きやすいが、命を預かっている仕事という意味では、どちらが楽とかそういった事はない。
< 53 / 143 >

この作品をシェア

pagetop